令和7年5月24日 江川下流域の初夏の動植物観察・調査体験と外来植物の管理活動
上尾いきもの保全調査団の4回目の動植物調査イベントです。埼玉県内の平地部ではこの季節に植物が生長して、動物の活動が活発になります。どんな出会いがあるのか楽しみです!
今回も県内で幅広く自然環境の保全活動に取り組んでおられる公益財団法人埼玉県生態系保護協会の皆さんに、ガイドしていただきました。
道路沿いの土地等
領家農村センターからトラスト17号地に向かう道路沿いで特定外来生物のオオキンケイギクが花を咲かせていました。花はきれいですが、特定外来生物のため、敷地内における栽培、運搬、野外に植えたり種をまく、販売等は外来生物法により禁止されている植物です。5月に咲くキクのような黄色の花です。種子の自然散布によって植えていなくても生えてくることがあります。これ以上の拡大を防ぐためには、敷地内で見つけた時はできるだけ根から除去する必要がありますし、自宅等で栽培している方は早くに処分してください(植物なので、引き抜いて袋などに入れて縛って運搬することは問題ないです)。特定外来生物に関するルールは法令で定められた守らなければいけないことなので御協力をお願いします。
それ以外にも、外来植物のユウゲショウ、アメリカフウロ、セイバンモロコシ、アレチマツヨイグサ、キキョウソウなどが見つかりました。また、動物では特定外来生物のガビチョウの鳴き声、アライグマの糞などが見つかりました。身の回りに外来生物が多くなっていますが、生物多様性を保全するためには、外来生物を知って見つけたら除去したり、住みづらい環境にするなど、市民の皆さんにもできることから取り組んでいただきたいです。
在来種ではシジュウカラの鳴き声が聞こえました。シジュウカラは鳴き声の種類によって求愛、なわばりの宣言、天敵の出現など色々と意味があるとのことで、鳥の鳴き声研究の原点になっているとのことです。
みんなで外来植物の状況を確認しました(左)、特定外来生物のオオキンケイギク(右)
トラスト17号地
ここは前回3月の調査では、希少種のノウルシのお花畑でしたが5月になるとヨシ原になります。これは季節的なサイクルでノウルシがなくなっているわけではありませんが、里地里山で行われていたような冬場の枯れたヨシの刈り取りがあってこそのものです。春先のきれいなノウルシ等の花もいいものですが、ヨシ原にもヨシ原の楽しみがあります。埼玉県のレッドリストに記載されているオオヨシキリを見つけました。オオヨシキリは4月に東南アジアから渡ってくる代表的な夏鳥で、ヨシのように茎がしっかりとした抽水植物に巣を作ります。一夫多妻でオスがつくる縄張りのなかに複数のメスが巣を作るそうです。この日はヨシ原の近くの木で盛んに鳴いているオオヨシキリを観察することができました。
背丈以上あるヨシ原で複数のオオヨシキリが鳴いていました(左)、この日は野生のオオヨシキリの姿を観察することができました(右)
オオヨシキリ以外では、ホオジロが確認され、キジとメジロの鳴き声が聞こえました。それと捕虫網でホシハラビロヘリカメムシ、ナナフシモドキ、セアカヒラタゴミムシなどを捕まえることができて、ケースに入れて参加者の皆さんで観察しました。ちなみに捕獲した在来種は、観察の後にその場でリリースしています。
捕虫網で捕獲した虫を観察しました(左)、虫が発する強いにおいを体感…しました(右)
捕虫網で捕獲した昆虫たち
湿地保全エリア
ここもトラスト17号地と同じように背丈より高いヨシ原です。ここにもオオヨシキリの縄張りが2つぐらいありました。オオヨシキリ以外にヨシ原をすみかとする動物としてカヤネズミの紹介がありました。前回の埼玉県レッドリストの更新の際にリストからはずれていますが、平野部のヨシ原では急激に数が減っているそうです。ヨシやオギ原の中で巣を作り、餌は昆虫で、秋から冬は草の種を食べるとのことです。大人の親指ほどの大きさで「日本一小さいネズミ」と言われているだけあって、この日に見つけることはできませんでした。冬場に草刈りなどをしていると巣が見つかることがあります。
5月には背丈より高いヨシ原になります(左)、カヤネズミの紹介(右)
屋敷林に隣接しているヨシ原には違う植物が生えているゾーンがありました。屋敷林があることで地下水がしみ出し、日陰になる所です。ここにはウキヤガラという湿生植物が生えていました。これは屋敷林があることでヨシよりもウキヤガラの生育環境に適した土壌水分条件になっているためと思われます。里地里山ではこのように色々な環境がモザイク状になっていることで、多様な生物の生育・生息場所がつくられているんですね。
手前の地下水の浸み出しと日陰によって、ヨシではなくウキヤガラが元気です(左)、ウキヤガラの花(右)
上尾道路の北側の湿地保全エリアは、南側とは少し雰囲気が変わって、膝丈ぐらいの高さの中茎草地になっていました。ちなみに草地には3パターンあり、他には背丈の高いヨシやオギなどの高茎草地、ノシバなどの低茎草地があるそうです。どのパターンの草地になるかは、草刈の回数などの管理の頻度が主に影響するとのことです。この中茎草地にはアゼナルコスゲとチガヤが多く、その隙間に希少種のタコノアシを見つけました。
また、捕虫網ではシオヤトンボを捕まえることができました。このトンボは中茎草地や低茎草地を主な生息地としていて、人工的な環境だと休耕地などを好むということで、代表的な里地里山のトンボとなります。シオカラトンボと非常によく似ていますが、羽の付け根や尾の先端の色で見分けることができるようです。
白い穂を付けるチガヤとアゼナルコスゲによる中茎草地(左)、アゼナルコスゲの隙間に生えていた赤い茎が希少種のタコノアシ(右)
中茎草地を好むシオヤトンボ
トラスト16号地
ここでは、昆虫調査のピットホールトラップと植生調査のコドラート調査を行いました。
ピットホールトラップは、主に地上を動き回る甲虫類をターゲットにする調査で、オサムシ科の甲虫が代表種になります。すべての種ではありませんが、オサムシ科の甲虫は羽が退化しているため、環境が改変される際に簡単に逃げることができないため、指標の生物になりやすいとの解説がありました。トラップを林床と湿生草地、江川右岸の草地にしかけて、異なる環境でどのような甲虫が生息しているかを調べました。トラップと言っても単純なもので、コップに餌を入れて、落とし穴のように埋めるだけです。土地の地権者の了解をとる必要はありますが、コップと餌だけで誰でもできる調査です。同じ数で継続的に行うと、定量的な変化も把握することができます。しかし、構造は単純でも雨の降らない日に行うなど注意点もあるようです。
トラップの中身をみんなで観察中(左)、林床で捕獲したシデムシなどの甲虫たち(右)
植物については、前回の調査で確認した希少種のチョウジソウやノカラマツが順調に生育していました。チョウジソウは花が終わっていましたが、花が咲いている時はきれいなお花畑になっていたと思います。これから花が咲く種としては、ノハナショウブやトモエソウが確認されました。どれも野草であるため花が咲いている時期に観察に来るのはなかなかタイミングが難しいものです。
この時期に花が咲いている種としてはハナムグラがあります。ここではハナムグラのコドラート調査をしました。群落の中に1m四方の枠を設置して、群落の被度と群度を測定します。被度がどれぐらい広がっているか、群度がどれぐらい集まっているかのことで、これらを把握することで植物同士の共生関係がわかります。ハナムグラはヨシと共生関係にあって、生育しやすい環境ということでした。
今回、紹介した植物たちはすべて、埼玉県レッドデータブックに記載されている希少種です。写真だけ見ると、これだけ生育している植物が希少種ということ自体が信じられませんが、NPO法人エンハンスネイチャー荒川・江川や領家まちづくり協議会の皆さんの保全管理活動のおかげで、この豊かな自然環境が保全されています。最近では、このような氾濫原野特有の湿地が少なくなっていますし、里地里山で行われていた管理ができなくなったことで、このような豊かな自然環境が急速に失われています。生物多様性が高い貴重な自然環境を次世代に引き継いでいくことがとても大事です。
トラスト16号地のチョウジソウの群落(左)、ノカラマツの群落(右)
トラスト16号地のノハナショウブ(左)、トモエソウ(右)
コドラート調査の解説(左)、青色の棒がコドラート(方形枠)の目印です(右)
調査対象の希少植物のハナムグラ(小さな白い花)
江川右岸、サクラソウトラスト地
江川右岸の草地でピットホールトラップを行ったところ、アオオサムシやオオゴミムシが捕獲されました。これらの甲虫はミミズや節足動物などの小動物以外にも動物の死がいを食べたりします。地味な存在ですが、生態系における生物のつながりのなかでは、生命をまっとうした動物を自然に戻す貴重な存在です。
回収前のピットホールトラップ(左)、トラップの中身をみんなで観察(右)
トラスト16号地では捕獲できなかったアオオサムシが入りました
このあと江川対岸のサクラソウトラスト地に移動して、お昼を食べてから、みんなで外来植物の除去作業に取り組みました。侵略的外来種のオオブタクサ、セイタカアワダチソウ、ハルジオンを探しながら除去しました。NPO法人エンハンスネイチャー荒川・江川の方から、希少種のノジトラノオとセイタカアワダチソウが似ているので、注意して欲しいと教えてもらいました。確かに最初は、あまり見分けがつきませんでしたが、目が慣れてくると判別できるようになりました。
最後に事前に設置してあったセンサーカメラにどのような動物が写っているかを確認しました。やはり、特定外来生物のアライグマが多く写っている結果でしたが、中にはホンドキツネも写っていました。普通に生活しているとキツネに出会うことはほとんどありませんが、実は上尾丸山公園でもセンサーカメラにホンドキツネが写ったことがあります。目立たなくても身の回りには色々な動物が住んでいるので、動物たちの生息環境を守ることは大事なことですね。センサーカメラは、けもの道や哺乳類の痕跡を見つけて設置すると撮影確率が上がるとの説明がありましたが、けもの道の判別などはなかなか経験が必要で簡単なことではありません。しかし、自然観察においては、動植物だけではなく、けもの道や動物の痕跡などを見つけるのも大事だということがわかりました。
外来植物の除去作業(左)、みんなでセンサーカメラを確認しました(右)
この日に御参加いただいた皆さんで集合写真