令和7年1月18日 江川下流域の冬の動植物観察と竹林管理作業
上尾いきもの保全調査団の2回目の動植物調査イベントです。イベントの冒頭では、市の職員よりこの事業の概要説明する中で、この江川下流域において30年以上にわたって自然保護に取り組んでいるNPO法人エンハンスネイチャー荒川・江川の皆さんの活動は、最近、野生絶滅からの復活をはたしたムジナモの保全活動に取り組んでいる市民団体の皆さんと同じぐらいすごいことだという紹介をしました。
調査イベントでは、県内で幅広く自然環境の保全活動に取り組んでおられる公益財団法人埼玉県生態系保護協会の皆さんにガイドしていただきました。
真冬の寒い日でしたが、たくさんの調査団員の皆さんに御参加いただきました。
トラスト17号地
この土地は、NPO法人エンハンスネイチャー荒川・江川さんと地権者の方が土地保全協定を結んで、市民の皆さんより寄附を集めて自然環境の保全をしている場所です。かつては田んぼでしたが、大雨などで江川の水位が高くなると水が入ってくるので、今は湿地帯になっています。この場所に接した農地では植物の「冬越し」について観察しました。よく見ると葉を円形に拡げている植物があります。これは植物の冬越しの形態でロゼットと呼ばれるそうです。葉を放射状に拡げる理由としては、葉が重ならないようにして日の光を浴びやすくするためと言われています。ロゼットで冬越しした植物は、春になると茎を伸ばして葉を展開させるそうです。ロゼットは冬を越すための植物の知恵なんでしょうね。ロゼットが確認された種はキツネアザミ、外来種ですがハルジオンとヒメジョオンなどです。ホトケノザという植物はロゼットで冬越しをするのですが、日の光をたくさん浴びたためか、すでに花を咲かせていました。
それと葉の上にナナホシテントウを発見しました。多くの昆虫は卵、幼虫、さなぎなどで冬越しをしますが、ナナホシテントウは成虫のまま冬の時期をすごすそうです。また、17号地は草刈りがされていたので、そこにきていたメジロを確認することができました。
ロゼットについての解説の様子(左)
花を咲かせていたホトケノザ。本来の花期は3月です。せっかちですね(右)
湿地保全エリア
大宮国道事務所は、上尾道路の環境保全対策の取り組みとして湿地保全エリアを管理しています。ここでは、全面的に草刈りをしていたため、枯れた草の薄茶色に覆われていたのですが、一筋だけ濃い茶色の部分がありました。17号地のほうを振り返ってみると同じく薄茶色の中に濃い茶色の部分がありました。これは湧水による水の浸み出しと「みお筋」でした。湿地の隣の屋敷林が湿地の水源涵養の役割を果たしており、湿地と樹林地がセットであることが湿地環境の保全にとって大事とのことでした。
そんな「みお筋」のまわりにはハクセキレイやタシギを確認することができました。ハクセキレイは1年中日本に生息する留鳥で、タシギは泥の湿地をすみかとする冬鳥です。タシギは長いくちばしで泥の中のミミズなどを食べるとのことでした。さすがに野鳥ということもあって気がついた時には、肉眼では確認することが難しいところまで飛んで行ってしまいました。また、上尾市の周辺で観察できるセキレイの仲間についての解説がありました。ハクセキレイの他には、名前のとおり体が黄色いキセキレイと日本の固有種のセグロセキレイとのことでした。セグロセキレイはヨーロッパのバードウォッチャーの皆さんにも人気だということでした。今回は見ることができませんでしたが、いつか観察してみたいですね。
17号地で浸み出している湧水(左)
湿地保全エリアを江川に向かって流れる湧水のみお筋(右)
調査団員の皆さんで飛んだ鳥を確認中。タシギでした。
湿地から少し土地が高くなって乾いている所には、無数の土の盛り上がりがありました。これはモグラが穴を掘った時に出る土を地上に出した時にできるモグラ塚とのことでした。モグラは全国的には8種類が生息しており、関東地方にいるのはアズマモグラというそうです。モグラは体の毛がやわらかくて短いため振動を感じやすいとのことです。目は見えないので体で振動を感じとって活動するようです。また、穴は体のサイズと同じぐらいのため土の中で方向転換はできないとのことです。穴の途中にT字路を造っておいて、そこで向きを変えるそうです。土の中の世界もなかなか奥が深いですね。
無数の土の盛り上がりはモグラ塚(左)、標本でモグラの毛の質感を体感しました(右)
領家まちづくり協議会の松本氏からは、竹林の拡大についての解説がありました。昔は養蚕のための桑畑だった所も、農家の方が養蚕をやめたら、竹がひろがりだして、今のような竹が優占する竹林になったとのことです。湿地保全エリアの隣の屋敷林にも竹が生え始めていて、拡大しないか心配しているとのお話しがありました。里地里山では人による管理が少なくなると環境が変わって、生物多様性が低下するということが心配されています。これからの時代に里地里山をどのように管理していくべきか、考える必要がある課題だと感じました。
竹林になった環境を元に戻すことは難しいため、拡大をしないようにするにはどうすればよいか、どのような景観の竹林にするのがいいかを皆さんと意見交換することでいいアイディアがでるかもしれません。
※日本の生物多様性には4つの危機があるとされていて、里地里山の手入れ不足が第2の危機として紹介されています。詳しくは下記のホームページをご覧ください。
・環境省のホームページ(外部サイトへのリンク)
・国立環境研究所のホームページ(外部サイトへのリンク)
桑畑から遷移した竹林(左)、屋敷林に生え始めた竹(右)
トラスト16号地
トラスト16号地では、NPO法人エンハンスネイチャー荒川・江川の方が、前回の調査イベントの時に確認した根返りしたクヌギの大木の玉切りをしていました。河畔林の代表的な樹木のエノキやムクノキの葉の触感の違いなどやチョウの食草になることの話しを聞いていた時に、上空に猛禽類を発見!すぐに対岸の荒沢沼のほうに降りてしまいましたが、ノスリでした。生態系ピラミッドの頂点の猛禽類が生息できるのは、この周辺の自然環境が豊かな証拠です。ただそこに自然が残されているだけでは、外来植物が繁茂したり、樹木が増えすぎてしまって湿地が陸地化してしまい、生物多様性は低下してしまいますが、NPO法人エンハンスネイチャー荒川・江川や領家まちづくり協議会の皆さんが日々の保全活動に取り組んでいるから、このような豊かな自然が残っているということを改めて実感しました。
倒木したクヌギの玉切り作業の様子(左)
葉をもむとゴマのような香りのするゴマキの紹介。埼玉県レッドリスト2024植物編では絶滅危惧2類にランクがあがってしまいました(右)
江川沿いの竹林で管理活動
今回のイベントの最後に、調査団員の皆さんと市の職員が協働して、江川沿いに拡がっている竹林の管理活動に取り組みました。領家まちづくり協議会の松本氏のお話しにもあった「ひろがった竹林」で、枯れて倒れかかった竹をみんなで協力して倒したり、除去したりしました。また、侵略的外来種で、生態系に被害を与えてしまうシュロの駆除にも取り組みました。1時間ぐらいの作業でしたが、多人数のマンパワーはすごいです。たくさんの竹を除去して、竹林がすっきりしました。皆さんお疲れさまでした。
みんなで協力して倒れかかっている竹やシュロを除去しました。
すっきりした竹林(左)、保全活動には発生材の処理や活用が課題となります(右)