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教育委員会委員リレーエッセイ  -矢野 誠二 委員-

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年6月1日更新 ページID:0310864

 【縁をどう生かすか】 〔矢野 誠二 委員〕

   矢野委員の顔写真

 令和4年4月1日付で、上尾市の教育委員に任命いただきました矢野誠二と申します。私は、中学校教諭として教育の仕事をスタートとし、定年退職後も学校教育と社会教育に携わってまいりました。教育現場と行政での経験を生かし、未来を担う子供たちの健やかな成長と上尾市の教育の発展のために、微力ではございますが持てる力を傾注して職責を果たしてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 この原稿を書くに当たり、改めて自分の半生を振り返ってみました。そして、これまで私はとても多くの人と出会い、影響を受け、教えられ、助けられてきたことを実感しています。その人数や回数は、おそらく記憶の何十倍、何百倍などと表せないほどの数であろうと思います。最近はあまり聞かれなくなりましたが、「袖振り合うも多生の縁」という言葉あります。広辞苑によると、「道行く知らぬ人と袖が触れ合うことさえ宿縁による。すなわち、ちょっとした出来事もすべて宿世の因縁によるという意。」とあります。大学生の時、卒業後の進路で悩んでいた際、教師の道を進むことを決めたのも、中学生の時にお世話になった先生と卒業後再会した際に背中を押してくれた心強い助言でした。縁(間接的な条件)とは、人との出会いだけでなく、物や事象等の発見・体験、書籍や先人の言葉など、どこにでも存在するものです。その時は何も感じなくても、後になって気付くこともある不思議な力をもったものだと思います。

 さて、新型コロナウィルスの影響は、私の楽しみの一つでもある旅にも及んでいます。感染の不安でここ数年自粛していますが、落ち着いたらまた再開したいものです。私の場合、旅の目的は風光明媚な自然や建造物等、名所旧跡を見物する観光もありますが、読んだ小説に触発されたり、興味をもった情報から実物を見たい・調べたいという衝動に駆られたりすること(どちらかと言えば視察)も多いのです。歴史や民俗、伝統や文化を学ぶ以外にも、そこで出会った人(その土地の人や観光客、ガイド等)から人の優しさに触れたり、多くの情報を得られたりすることも旅の良さだと思います。実際、旅することで、テレビや新聞等では知り得ない、様々な職業や立場の人の価値観や生き方・考え方を知ることができる貴重な機会になっています。これも何かの縁と言えます。

 旅を通して得た知識や経験は、自分の教養を高めるだけでなく、その一部は教育に関わる仕事にも役立ててきました。

 もう8年も前のことですが、私の娘が自宅から程近い産婦人科で、双子(二人とも男の子)を出産しました。つまり、私にとっては初孫ができたわけです。母子共に退院する際、病院の計らいで(病院のサービスなのでしょう。)赤ちゃんの写真を台紙に貼ったものをいただきました。その台紙には、次のように書かれていました。

親の心得

 私は、この言葉が気になり調べてみました。秩父市にある秩父神社にお電話で伺ったところ、ご親切にも説明してくださいました。社殿には、この神社で有名な名工 左 甚五郎 作の「子宝・子育ての虎」という彫刻があって、その下にこの「親の心得」が掲げられているとのことでした。それは宮司さんの思いがあって、平成になってから直筆で書かれたものだそうです。この言葉の意味を私なりに解釈すると、子どもは成長するにつれ、徐々に親から離れていきますが、親は子どもが大きくなっても、赤子の時(誕生して)からずっと変わらず、心だけは通わせ続けなければならないということだと受け止めました。

 4カ月後に、私は秩父神社を訪れました。「親の心得」が書かれた立て看板は本殿の正面の上がり口にありました。社殿の周囲に施された貴重な彫刻の数々を直接見学してから、記念に「親の心得」の絵馬を購入し帰路につきました。この旅は、目と心に期待していた以上の多くの収穫を得ることとなりました。また、埼玉県内と近い場所であるため、その後も2度足を運ぶことになりました。

 私は、この神社で学んだことを、当時の勤務校の子供たちには「お元気三猿」(日光の三猿とは全く異なったもの)について講話の題材とし、保護者や教職員には子育てや指導の助言として自分の思いを込めた紹介をしました。

 たった1枚の産婦人科で戴いた台紙の言葉から展開した、私にとっての縁の一例です。

 「縁がある。・・ない。」と思うのは、その人の感じ方や捉え方の違いなのです。大事なことは縁を感じ、それをどう生かすかではないでしょうか。

 私にとっては、このたび教育委員に任命されたことも大きな縁と受け止めています。今後、上尾市の教育の更なる発展のためにどのように生かしていくか、常に熟考を重ね尽力したいと思います。

 上尾市教育委員会委員  矢野 誠二