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■上尾の寺社 24 八枝神社(平方)

都内にも広がる氏子集団と「平方のどろいんきょ」

 「ぐるっとくん」を「平方神社前」で下車し、北へ100メートルほど歩くと、橘(たちばな)神社前に出る。左折して歩を進めると、左前方にケヤキとエノキの巨木叢林(そうりん)が見えてくる。左折してから200メートルほどで石造の鳥居前に到着するが、ここが目指す八枝(やえだ)神社である。
 巨木に囲まれた拝殿で参拝するが、それにしてもケヤキとエノキの大木には圧倒される。根は地表に盛り上がり、梢(こずえ)は天を突いている。境内は巨大な緑の傘に覆われて森閑としているが、これらの巨木群は市指定文化財でもある。ケヤキの巨木は3本、エノキは4本であるが、樹齢は400から500年といわれ、樹高は約30メートルほどである(『上尾の指定文化財』)。
 江戸時代の八枝神社は天王社(てんのうしゃ)であるが、ここは天下の奇祭「平方のどろいんきょ」があることで知られている。悪疫退散を願う天王社の夏祭りであるが、近在の天王社の祭礼と全く異なるのは、通常の神輿(みこし)と白木作りで何の装飾もない「隠居神輿」の2基の渡御(とぎょ)があることである。この隠居神輿はお神酒(みき)所や民家の庭先で、神輿の担ぎ手ともども水を掛けられ、しかも隠居神輿そのものを地面に執拗(しつよう)なほど転げ回す。ここで神輿も担ぎ手も泥だらけになるが、この勇壮な渡御から「どろいんきょ」の名が生じたという。隠居神輿は荒川に入ったり、垂直に立てられその上に歌舞伎役者に扮(ふん)した若者が乗ったり、変化に富んだ見せ場を繰り返し、午後9時ごろ八枝神社に還御(かんぎょ)する。この珍しい「どろいんきょ」の渡御がいつごろから始められたのか不明であるが、江戸時代の平方は河岸場として栄えた所で、その河岸文化の影響があったともいわれている。この奇祭は、市指定無形民俗文化財でもある(前掲書・『上尾市史』第9巻)。
 八枝神社は「平方の御獅子(おしし)様」として近隣でも知られているが、それは同社の特大のお獅子が、悪疫退散に霊験(れいげん)あらたかであったためである。獅子が各地の村々に貸し出されるのは、村々の願いに応えるためである。
 ところで八枝神社で特筆されるべきことに、非常に広範囲に氏子集団を持っていることが挙げられる。氏子集団は埼玉県域はもちろんのこと、東京都の各地に所在している。嘉永4(1851)年に別当寺の正覚寺(しょうがくじ)役僧がお札を配布しているが、その範囲は現清瀬市にまで及んでいる。大社でもない地方の神社が、これほど広範囲に氏子集団を持っている例は全国的にも珍しい(『上尾市史』第3巻)。

八枝神社写真

市指定文化財のケヤキ・エノキに囲まれた本殿

八枝神社地図


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